ヘモグロビン(Hb)とは、赤血球に含まれている「ヘムたんぱく質」と呼ばれる成分で、赤血球の赤い色素成分でもあることから「血色素」とも呼ばれております。
ヘモグロビンの最大の役割は体内の酸素の運搬作業を行う点にあり、ヘモグロビンは肺に送られた酸素を全身に送り届ける働きをしております。
また、肺に全身の細胞内で代謝された「二酸化炭素」は、ヘモグロビンによって肺へ運ばれ、呼吸によって体外に排出されます。
このようにヘモグロビンが酸素の運搬作業を行えるのはヘムたんぱく質の主成分である「ヘム鉄」が酸素と結び付く性質をもっている為です。
呼吸によって体内に取り込まれた酸素は、ヘモグロビンのヘム鉄と結び付き、ヘモグロビンと一緒に体内へ運ばれます。
ヘモグロビンは酸素を運搬する重要な成分ですが、酸素と結びつき血液の流れに乗って全身に移動し酸素を送り届けているのですね。
その為、ヘモグロビンの量に比例して酸素の運搬能力は高くなったり低くなったりもします。
「では、もし体内のヘモグロビンの量が低下していたらどのようなことが起きるでしょうか?」
これはヘモグロビンの働きや役割がわかればある程度想像がつくと思います。
そうですね、体の各器官に酸素を上手に運搬できなくなってしまうのです。
ヒトは酸素なしでは生命活動を維持することができません。
そしてその酸素を運搬するヘモグロビンなしでも生命を維持することは出来ないのです。
~ポイントのまとめ~
★ヘモグロビンは赤血球の赤い色素成分である
★ヘム鉄は酸素と結びつく性質をもっている
★酸素運搬能力はヘモグロビン量に比例する
★ヘモグロビンがないと生命の維持が出来ない
ヘモグロビン血液検査が行われるケースについて見ていきましょう。
ヘモグロビン血液検査は、女性に特に多く発症する傾向にある「貧血症状」を発症している際に血液検査が実施されます。
貧血を起こす要因はいくつかありますが、ヘモグロビンの量が減少すると、体内の酸素運搬能力は低下する為、ヘモグロビンの血中量が正常であるかどうかの確認をヘモグロビン血液検査によって測定するのです。
尚、貧血の最大の原因は鉄分の不足によってヘモグロビンが不足する鉄欠乏性貧血であり、貧血症の実に90%程度が、この鉄欠乏性貧血となっております。
※鉄欠乏性貧血=貧血症の約90%を占める
検査によってヘモグロビン血中量が基準値を下回っているようなケースでは、貧血の要因となる疾患の可能性も検討していきます。
貧血症状を引き起こす主な疾患としては
●鉄欠乏性貧血
●再生不良性貧血
●巨赤芽球性貧血
などの疾患を発症している可能性が検討されます。
また、逆に数値が基準値を大きく上回るようなケースでは
●赤血球増加症
●真性多血症
●脱水症状
などの症状を発症している可能性を検討していくことになります。
※ヘモグロビン血中濃度は様々な疾患の指標となる数値
検査で疑われる主な疾患・病気 | |
---|---|
No | 検査で疑われる主な疾患・病気 |
① | 鉄欠乏性貧血 |
② | 巨赤芽球性貧血 |
③ | 赤血球増加症 |
④ | 真性多血症 |
⑤ | 脱水症状 |
ヘモグロビン血液検査の血中濃度が低い数値を示す場合は、肝臓などに蓄えられている貯蔵鉄も既に枯渇している可能性が検討されます。
貯蔵鉄は、ヘモグロビンを優先して守る必要がある生物が備蓄と言う方法で肝臓内に蓄えている鉄分のことです。
この鉄分はフェリチンという形で肝臓に貯蓄され、不足すると血液中に流れ出る形で常時ヘモグロビンの合成を行えるように機能しております。
貧血症状の原因が、鉄の欠乏症によるものである場合は、この貯蔵鉄が既になくなりヘモグロビンの合成が出来なくなっている可能性をあらわしているとも言えるのですね。
また、鉄欠乏性貧血以外にも貧血症状を招く可能性のある疾患は幾つもありますが、ヘモグロビン測定検査で異常値が発見されるケースでは他の血液検査や尿検査などを行い貧血症状を起こしている原因を突き止めていくことになります。
~ポイントのまとめ~
★ヘモグロビン量が高いか低いかによって検討される疾患が見えてくる
★貯蔵鉄が不足すると鉄欠乏性貧血症を招く
★ヘモグロビン血液検査では貧血症状を発生している疾患を見極めることが重要
ヘモグロビン検査値の一般的な正常値の範囲、基準値の範囲について見ていきましょう。
以下の表で掲載する数値の範囲は、一般的な検査値の基準値の指標であり、仮に基準値内であっても疾患の可能性がないという訳ではありません。
尚、ヘモグロビン血液検査では、「血液中」のヘモグロビン含有量を測定します。
血液中のヘモグロビン成分を測定する際は、検査用語として「血清ヘモグロビン」という言葉が記されているかもしれません。
血中ヘモグロビンも血清ヘモグロビンもどちらも血液中の含有量、及び含有比率を示す指標ですので覚えておきましょう。
基準範囲を知る前に覚えておくべき点についてご説明しますね。
まずヘモグロビンの含有量及び含有比率は男性と女性では若干数値が異なります。
統計的に男性は女性よりも1単位(dl)あたりに含まれるヘモグロビン量は多くなり、女性は男性よりも低くなるのが通常です。
その為、下記表は性別で基準範囲を分けてあります。
※ヘモグロビン含有量は性別によって基準範囲が異なる
次に女性に関しては検査を行う時期によっても数値の変動が発生します。
これはご説明の必要がないかもしれませんが毎月の「月経」が関与する為です。
初潮を迎えていない子供の場合は時期による月内の大きな変動はありませんが、月経時は出血に伴いヘモグロビンも放出される為数値は低い数値を示します。
最後に基準値の範囲は臨床検査を行う施設や測定方法により若干異なるケースがあります。
まず検査を受ける病院の医師の説明を確認しましょう。
女性の場合は、月経の有無なども確認されるはずです。
検査機関では様々な検査が同時に行われることがある為、検査の結果表では数値が羅列していたり、ひとうひとつの医師の説明もわかりにくい部分もあるかもしれません。
そんな時は測定結果表に記載されているヘモグロビン(hb-a1c)という項目を見つけ以下の表と照らし合わせて確認してみると理解しやすくなると思います。
男女別のヘモグロビン数値の 一般的な正常値、基準値の範囲 | ||
---|---|---|
単位(g/dl) | 男性 | 女性 |
疾患の可能性が検討される範囲 | 18以上 | 17以上 |
やや高い範囲 | 16~18 | 15~17 |
一般的な基準値・正常値の範囲 | 13~16 | 12~15 |
やや貧血症状 | 11~13 | 10~12 |
貧血症状に伴う疾患の可能性が検討される範囲 | 11以下 | 10以下 |
ヘモグロビンをしっかり増やしたい。
もしそう思った場合にどのようにヘモグロビンを増やすべきなのか?について見ていきましょう。
基本的に体内の成分を増やす時にまず考えることは栄養の摂取による増加ですね。
これはヘモグロビンに関しても同様です。
ヘモグロビンを増やす方法の最も確実な方法は、ヘモグロビンを合成する成分を含む食品を摂取することです。
ヘモグロビンは複数の成分やミネラルが合わさって合成されております。
その最たる成分は「鉄分」です。
ヘモグロビンの合成に不可欠な栄養素は鉄です。
実際にヘモグロビンが合成される過程では、鉄分を主体として複数のミネラルやタンパク質が必要となります。
生成に必要となるタンパク質のアミノ酸分子と鉄分が主成分としてヘモグロビンの材料となるのですね。
※ヘモグロビンの合成材料の基本は鉄分とアミノ酸
ですからヘモグロビンを効果的に増やす方法を検討する場合は、鉄分を多く含む食品とアミノ酸を積極的に摂取していくことが効果的です。
尚、鉄分にはヘム鉄と非ヘム鉄と呼ばれる2種類の鉄があります。
※鉄は動物性のヘム鉄と植物性の非ヘム鉄に分類される
この2種類は大きく動物性食品と植物性食品に分類されどちらも鉄には変わりませんが吸収率が大きく異なります。
より効率よく体内へ吸収されやすいのはヘム鉄です。
ヘム鉄は動物性食品に特に多く含有されており、鉄分と言えばレバーと呼ばれるように動物性食品の肝臓(レバー)にヘム鉄はたくさん含有されております。
植物性食品に含まれる鉄分は肝臓などの動物性食品と比較すると、人体への吸収率はかなり低くなることが確認されております。
その為、食品から鉄分の摂取をより多く摂取したいと考える場合は、ヘム鉄系の鉄分を摂取するように心がけるとよいでしょう。
ヘム鉄を多く含む食品と非ヘム鉄を多く含む食品を見比べてみましょう。
ヘム鉄を多く含む食品には動物性食品や魚介類が多くありますね。
対して非ヘム鉄を多く含む食品群には海藻類や野菜類が多くあることがわかります。
摂取している食品の形態からもヘム鉄・非ヘム鉄の分類はある程度想像がつきそうですね。
鉄分を多く含む食品のヘム鉄・非ヘム鉄の分類表 | |
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ヘム鉄を多く含む食品 | 非ヘム鉄を多く含む食品 |
鶏レバー | あおのり |
豚レバー | ひじき |
牛レバー | いんげん豆 |
牛はつ | がんもどき |
牛もも | 納豆 |
鶏卵 | 小松菜 |
鮎 | 切り干し大根 |
あさり | 菜の花 |
サンマ | ほうれん草 |
ハマグリ(身) | サラダ菜 |
植物性の非ヘム鉄は体内への吸収率が低いことから鉄分の補給ではレバーなどのヘム鉄系食品からの摂取が理想となります。
実際の非ヘム鉄の体内への吸収率は約5~6%程度。
対してヘム鉄の吸収率は約25~35%とこの差は歴然です。
◆ヘム鉄(動物性食品)の吸収率=約25~35%
◆非ヘム鉄(植物性食品)の吸収率=約5~6%
では、植物性食品から鉄分をしっかり吸収する方法はないのでしょうか?
実は、昆布やひじき、わかめなどの海藻類や鉄分の王様とも言われているほうれん草からもある程度しっかりと鉄分を吸収する簡単な方法がひとつあります。
それは「ビタミンC」と一緒に摂取するという非常に簡単なことです。
ビタミンCは鉄の吸収率を高めることが既に確認されております。
※ビタミンCは鉄分の吸収を高める働きがある
これは植物性食品に限る話ではありませんが、少しでも食品から効率良く鉄分を吸収したい場合は、ビタミンCを多く含む柑橘類、例えばビタミンCの代表と呼ばれるレモンやライム。
野菜ではパセリやブロッコリー、飲料系食品では、煎茶やグァバ茶、アセロラドリンクなどには多くのビタミンCが含有されております。
多くの食品に含まれている成分ですから、これらを組み合わせたりレシピに工夫を加えることで非ヘム鉄系の鉄分を多く含有する食材であっても吸収率を高めることが可能なのです。
~ポイントのまとめ~
★ヘモグロビンの合成材料の基本は鉄分とアミノ酸
★鉄は動物性のヘム鉄と植物性の非ヘム鉄に分類される
★ヘム鉄(動物性食品)の吸収率は約25~35%と非ヘム鉄よりも圧倒的に吸収率が高い
★ビタミンCは鉄分の吸収を高める働きがある