甲状腺ホルモン(TSH)検査は甲状腺ホルモンの分泌が影響を与える疾患の可能性を検討する為に検査が行われるのが通常です。
また、一般的な健康診断の項目としても検査項目とされており、甲状腺機能の確認が重要な検査指標とされていることが解ります。
今回は、甲状腺ホルモン(TSH)検査の検査数値の見方、そして検査結果からどのような事が解るのか。更に検査結果から疑われる疾患の可能性について確認していきましょう。
目次
甲状腺ホルモンとは、体内の甲状腺と呼ばれる内分泌腺から分泌される重要なホルモンのひとつです。
「では甲状腺は私たちの体の中のいったいどこにあるのでしょうか?」
甲状腺はちょうど首の正面、男性の場合はのどぼとけがはっきり出てくるのでわかりやすいですが、ちょうどのどぼとけの直ぐ下に気管をまたぐように存在します。
形状は正面から見た場合、図のように蝶が羽を広げたような形状をしており、重さは約20グラム程度の器官です。
甲状腺ホルモンとは、この甲状腺から分泌されているホルモンの事を指すのですね。
次に血液検査を行った事がある方は、TSHという数値があることをご存知の方も多いと思います。
このTSHとは脳下垂体の前葉から分泌される「甲状腺刺激ホルモン」の事を指します。
名前の通り、TSHは甲状腺を刺激する目的で脳下垂体から分泌されます。
言わば甲状腺ホルモンの分泌量をコントロールしている指令役とも言えますね。
~ポイントのまとめ~
★甲状腺の場所・位置はのどぼとけの直ぐ下
★TSH=甲状腺刺激ホルモン
★TSHはホルモンの分泌量を調整する働きを持つ
甲状腺ホルモンは大きく2種類のホルモンに分類されます。
その2種類とは「トリヨードサイロニン(T3)」・「サイロキシン(T4)」の2種類です。
どちらも同じ甲状腺から分泌されるホルモンですが、ホルモン分子にくっついているヨードの数によって分類されております。
ホルモン分子1つにつき3つのヨードが結合しているものはT3=トリヨードサイロニン、ヨードが4つ結合している場合はT4=サイロキシンです。
この2種類の甲状腺ホルモンはTSHからの刺激を受けて甲状腺から分泌されます。
分泌されたホルモンは血流にのって体内を循環し細胞の代謝を高めて体温を保持したり、皮膚の粘膜の強化、免疫力の向上などを促します。
甲状腺の機能に亢進が見られる場合は、トリヨードサイロニン(T3)、サイロキシン(T4)ともに血中量が増加します。
その為、甲状腺の分泌を調整するTSH甲状腺刺激ホルモンは分泌量をコントロールする為、TSH自身の分泌量は低下します。
この脳下垂体の前葉から分泌されるTSHは自身の分泌量をコントロールする為に、脳下垂体へ分泌刺激を促している視床下部に働きかけ分泌量を抑制しております。
このようなホルモン分泌に関わる「フィードバック機構」は重要な仕組みのひとつです。でもちょっとややこしいですね。
尚、甲状腺から分泌されるホルモンはトリヨードサイロニン(T3)とサイロキシン(T4)の他に「カルシトニン」と呼ばれるホルモンがあります。
カルシトニンは甲状腺から分泌されてはおりますが、甲状腺ホルモンとして分類されておりません。
~ポイントのまとめ~
★トリヨードサイロニン(T3)とサイロキシン(T4)の2種類がある
★TSHはT3とT4の分泌量をコントロールする
★TSHは視床下部への抑制を促す
TSH血液検査が行われるケースについて見ていきましょう。
TSH血液検査は、健康診断や人間ドッグなどの定期健診のケースを除いては、主に以下のような病気や疾患の可能性が検討される場合に検査が実施されます。
TSH血液検査が行われる場合の病気の可能性
☆甲状腺機能低下症の可能性
☆TSH産生腫瘍の可能性
☆ヨード過剰摂取の可能性
☆甲状腺機能亢進症の可能性
以上に掲げた疾患は代表的な主な疾患の可能性です。
TSH血液検査が実施される場合は以上の疾患の可能性が疑われるケースに多く実施されているのですね。
軽い微熱程度の発熱が続く。
もしくは寒気が続くなど甲状腺ホルモンは細胞の代謝に関わる重要なホルモンである為、体重の増減などが激しい場合なども甲状腺の機能検査を行う必要性があるのです。
尚、以下の病気・疾患に関してはTSH検査数値が特に重要な検査指標となります。
重要な検査指標(TSH血液検査)
①甲状腺機能低下症の場合
●橋本病
●アイソトープ治療後
②甲状腺機能亢進症の場合
●バセドウ病
~ポイントのまとめ~
★甲状腺機能低下症の可能性
★甲状腺機能亢進症の可能性
★橋本病・アイソトープの可能性
TSH検査値の一般的な正常値の範囲、基準値の範囲について見ていきましょう。
ここで掲載する数値の範囲は、一般的なTSH検査値の基準値の指標です。
ですから仮に基準値内であっても、病気や疾患の可能性がないという訳ではもちろんありません。
また、検査基準値の範囲は臨床検査を行う施設や測定方法によっても異なるケースがあります。
尚、TSH血液検査では、「血液中」の甲状腺刺激ホルモン含有量を測定します。※単位は(μlU/ml)です。
【TSH検査値の基準値表】 | |
---|---|
範囲 | 単位(ng/ml) |
上昇が認められる範囲 | 4.95以上 |
基準値の範囲 | 0.44~4.95 |
低下が認められる範囲 | 0.44以下 |
~ポイントのまとめ~
★TSH検査値の基準値表をチェック
★上昇と低下の範囲を確認
★血液検査の単位は
血液検査の結果、TSH検査値が基準値の範囲よりも高くなっている場合について見ていきましょう。
このようにTSHの分泌量が増加ケースでは、「橋本病」・「甲状腺手術後」・「アイソトープ治療後」などの甲状腺機能低下症に関わる症状を発症している可能性が検討されます。
TSHは甲状腺ホルモンの分泌を促す働きを持つ甲状腺刺激ホルモンです。
ですから甲状腺刺激ホルモンであるTSHの分泌量が増加するということは、血液中の遊離甲状腺ホルモン濃度が低下している状態であることを示します。
「血液中の甲状腺ホルモンが不足しているからもっと分泌しなさい!」と指令をたくさん出している状態ですね。
尚、血液中を循環している大半の甲状腺ホルモンは「サイロキシン(T4)」であり、T4の不足を示す指標としても検査は有効です。
TSHがしっかり分泌されているにも関わらず甲状腺ホルモンの分泌が弱い、もしくは低下している場合は、甲状腺機能低下症の可能性がありということになります。
また、このような甲状腺機能障害などに関係なく、数値が上昇を示すケースとしては、以下のようなケースでも数値の上昇が確認されます。
TSH血液検査数値が高い場合
☆TSH産生腫瘍
☆ヨード過剰の摂取
☆甲状腺機能に関わる薬物の服用
☆ドーパミン阻害薬の服用
などによっても数値の上昇が見られる場合があります。
特にヨードの過剰摂取によって機能低下症を招いているケースが日本では多く確認されております。
~ポイントのまとめ~
★TSH分泌量の増加は甲状腺機能低下症の可能性を示す
★血液中のT4の低下が確認される状態
★薬物の服用による上昇やヨードの過剰摂取でも検査数値は増加する
甲状腺ホルモンは、人体に対してどのような働きかけをするのでしょうか?
この甲状腺ホルモンの働きを把握しておくことはとても大切です。
人体は複数のホルモンが内分泌腺と呼ばれる器官や体内の臓器などから分泌されております。
ホルモンには成長を促したり筋肉を構成する働きをもつものや、男性らしさ、女性らしさの源となる性ホルモンなど様々なホルモンがありそれぞれ人体に大きな影響を与えることで知られております。
中でも甲状腺ホルモンは人体の代謝システムに関連するホルモンで、大きな意味では体調を整える、身体のバランスを整えるような役割を持っていると考えるとわかりやすいかもしれません。
全身のバランスに関与する働きを持つことから、他のホルモンの分泌が正常に機能していたとしても甲状腺の機能に異常が確認されると体調を崩すことになるのです。
特に熱エネルギー代謝では体熱のコントロールという重要な働きがあり、甲状腺ホルモンの分泌機構に異常が生じている場合は、微熱が長期間続いたり、悪寒が日常的に続く冷え性などを伴うようになります。
このように風邪を引いている訳でもないのに微熱が続く、寒気や悪寒が走るなどの自覚症状が長期的に継続して体感される場合は要注意。
甲状腺機能に何らかの異常をきたしている可能性があると検討することになります。
~ポイントのまとめ~
★甲状腺ホルモンは代謝のコントロールを行う
★体温の調整機能に影響する
★甲状腺の異常は何らかの疾患の合図
血液検査の結果、TSH検査値が基準値の範囲よりも低下している場合のケースについて見ていきましょう。
このように検査値の数値が基準値よりも減少しているケースでは、以下のような甲状腺機能亢進症の可能性が検討されます。
検査値が低い場合に疑われる病気の可能性
☆バセドウ病
☆亜急性甲状腺炎
☆亜痛性甲状腺炎
☆中枢性甲状腺機能低下症
また、妊娠中の妊婦などの場合もTSH検査値は減少します。
バセドウ病は甲状腺機能亢進症の代表的な疾患です。
tsh遊離血中濃度が低い数値を長期的に示すようであれば、バセドウ病の可能性も検討していくことになります。
血中の甲状腺ホルモン濃度が高い場合はTSHの数値が低下するという相反する数値を示すことを覚えておきましょう。
~ポイントのまとめ~
★甲状腺機能亢進症の可能性
★バセドウ病は代表疾患
妊娠中の妊婦の場合は、TSH検査数値が低下するという独特の症状の特徴が見られます。
ここでは、その原因について確認していきましょう。
まず妊娠中の妊婦は、体内で赤ちゃんを育てる為に様々な変化がおき始めます。
その変化のひとつにHCG(絨毛性性腺刺激ホルモン)の増加というひとつの変化が見られます。
HCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピンともいう)とは、女性の体内で妊娠が成立した際に急速に体内で分泌量が増加する性ホルモンのことです。
このHCGは甲状腺ホルモンと構造が非常に類似しており、甲状腺刺激ホルモン(TSH)同様、ホルモンの分泌を促す作用があり甲状腺機能の亢進をもたらします。
このHCGの働きかけの結果、TSHの分泌を抑制させることからTSH検査数値が低下しているのですね。
ですから妊娠中の妊婦の場合は数値が低い数値を示すものであると把握しておくことが大切です。
尚、妊婦でありかつ数値が低い場合は、ホルモン補充療法による甲状腺ホルモン剤の投与を行うケースもあります。
~ポイントのまとめ~
★妊婦はHCG(絨毛性性腺刺激ホルモン)の分泌量が増加する
★HCGとTSHは構造が似ている
★HCGがTSHの分泌を結果的に抑制させている
どのようなお薬にも副作用症状の可能性があり、甲状腺ホルモン剤に関してもやはり同様に副作用症状が幾つか確認されております。
甲状腺ホルモン剤の服用を行う場合は、効果の体感の有無に関わらず服用量を一定に保つことがまず大原則にあげられます。
補充療法で使用されるホルモン剤は人体内にある甲状腺ホルモンの成分と全く同一の成分のものです。
ですから容量と服用の時間間隔を守れば、副作用症状を発症するケースは原理的にはありません。
しかし、効果が薄くなってきたと感じた場合などに大量に摂取してしまうケースなどがあり、そのような場合に薬の副作用、副反応が出るケースが大半なのですね。
尚、甲状腺ホルモン剤の投与によって発症する可能性のある症状としては
~ポイントのまとめ~
☆多汗症の発症
☆痙攣・震え症状の発症
☆動機・息切れ症状の発症
などの副作用症状が確認されております。
これらの副作用症状は、甲状腺ホルモンの働きによって機能が亢進したと考えられる場合に発症する症状とも類似しております。
このことからも摂取量を適正に保つことが重要であることがわかりますね。
~ポイントのまとめ~
★効果の体感の有無に関わらず服用量を一定に保つこと
★多汗症・痙攣症状などが副作用症状として確認されている
★摂取量を守れば原則問題ない
血液中の甲状腺ホルモン濃度が高い場合、甲状腺刺激ホルモンの分泌量は低下し低い数値を示します。
これはTSH値の低下の原因でご説明してきたとおりですね。
甲状腺ホルモンは代謝に深く関与するホルモンです。
その為、血中濃度が高くなると心臓の心筋をより強く、より早く動かそうと働きかける為、結果的に最高血圧が上昇し高血圧症の症状を発症することになります。
高血圧症の検査でTSH検査を行ったのは、高血圧と甲状腺ホルモンには血圧を上昇させるという関連性があるためです。
しかし、甲状腺ホルモンは最高血圧を高くする作用をもたらす反面、血管の硬直を緩和させる作用も同時に発生させる為、最低血圧は逆に低い数値を示すようになります。
最高血圧と最低血圧の大きな脈圧差は人体への大きな負担ともなるので注意が必要です。
もし最高血圧が上昇したにも関わらず、最低血圧が低下する、もしくは変わらないようなケースは一度病院で甲状腺機能亢進症の可能性を検討する為にも検査を受けてみることをお勧めします。
~ポイントのまとめ~
★甲状腺ホルモンの増加は心筋の活動の亢進をもたらす
★最低血圧は逆に低下する
★甲状腺機能亢進症の可能性を検討