甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモン低下症)とは、甲状腺ホルモンの分泌量が低下する疾患の総称です。
全ての甲状腺機能低下症の原因が解明されている訳ではありませんが、甲状腺ホルモンのフィードバック機構のどの部位に異常が生じているのかによって原因を分類して対応します。
有名な疾患では橋本病がありますが、橋本病では橋本病は甲状腺そのものに異常が生じることで症状を発症する疾患であることが確認されております。
その他、指令を与える甲状腺刺激ホルモンの分泌機構に異常が見られる場合や、脳下垂体に指令を下す為に視床下部から放出される甲状腺ホルモン放出ホルモン(TRH)の分泌機構に異常が見られるケースも確認されております。
これらフィードバック機構の先行部位で症状が発症している場合は、脳腫瘍などが要因と成って異常をきたしている可能性も検討されます。
甲状腺機能は、一時的に機能が低下するケースなどがあり、例えばヨードの過剰摂取などによって症状が発症している場合はその要因となる物質の接種を控えるだけでも症状に回復が見られるケースもあります。
しかし、甲状腺ホルモンの分泌システムそのものに障害が発症してしまっている場合は、甲状腺ホルモン剤の投与などで治療を行っていくのが通常です。
~ポイントのまとめ~
★甲状腺機能低下症とは甲状腺ホルモンの分泌量が低下する疾患の総称
★原因となる部位によって分類
★ホルモン剤による薬物治療が行われるケースも多い
甲状腺のホルモンが分泌されるシステムの最も最初に分泌指令を下す部位は視床下部と呼ばれる部位です。
視床下部では、体内の遊離ホルモン濃度を感知し、脳下垂体から甲状腺へ刺激を送る為に分泌される甲状腺刺激ホルモンの分泌量をコントロールするホルモンを分泌します。
この脳下垂体へ指令を下す為に放出されるホルモンが「甲状腺ホルモン放出ホルモン(TRH)」と呼ばれるホルモンです。
視床下部は脳の中枢に位置し、その少し下に脳下垂体があります。
甲状腺ホルモンが分泌される仕組みは、まず視床下部から甲状腺ホルモン放出ホルモン(TRH)が分泌。
甲状腺ホルモン放出ホルモン(TRH)の指令を受けた脳下垂体が甲状腺刺激ホルモン(TSH)を分泌。
TSHの指令を受けた甲状腺がヨードとの結合を甲状腺内部で行い甲状腺ホルモンを合成し分泌。
という一連の流れがともなってようやく甲状腺からトリヨードサイロニン(T3)とサイロキシン(T4)といった甲状腺ホルモンが分泌されているのです。
甲状腺機能低下症では、異常を発症する部位によって疾患の原因を分類します。
尚、甲状腺ホルモン放出ホルモン(TRH)はTSH同様、甲状腺ホルモン遊離血中濃度が低くなると数値が高くなります。
~ポイントのまとめ~
★視床下部から脳下垂体へ放出されるホルモンが甲状腺ホルモン放出ホルモン(TRH)
★甲状腺ホルモンの分泌量を決める器官
★遊離血中濃度が低くなるとTRH数値は高くなる
甲状腺ホルモンはヨード(ヨウ素とも言う)とホルモン分子が結合した形で存在する為、ヨードは甲状腺ホルモンを構成する欠かせない成分であることは間違いありません。
しかし、このヨード成分の過剰摂取が要因となって甲状腺機能低下症を発症しているケースがあるのも事実です。
ヨードの過剰摂取が要因となって甲状腺ホルモンが生成できなくなる主なケースは、既に甲状腺に何らかの異常が発症しているケースや、甲状腺に慢性的な炎症をもたらしているようなケースです。
本来、ヨードは人体にも不可欠な成分でもあり、甲状腺ホルモンの材料ともなり体に良さそうなイメージもある成分です。
必要以上に摂取してしまったヨウ素は尿と共に体外へ排出されるため、過剰摂取もそれほど心配はありません。
しかし、甲状腺にトラブルが生じている場合は逆効果になる恐れもあるのですね。
ヨードの摂取量コントロールを考える場合は、海藻類に調整を加えるのが最も簡単です。
海藻類には多くのヨードが含まれており、特に「わかめ」や「昆布」、「ひじき」といった健康食品の代表的なものに多くのヨードが含まれております。
日本は生みに囲まれた国でもありこれら海藻類が食卓に並ぶケースも多いので、治療の場合はこれらヨードの摂取量をコントロールすることが大切です。
~ポイントのまとめ~
★既に甲状腺に何らかの異常が発症しているケースは可能性あり
★ヨードは人体にも不可欠な成分
★海藻類はヨード含有量が多い
◆甲状腺ホルモンの分泌量は年齢によって変化するの?
ここでは加齢に伴う分泌量の変化についてチェックしていきましょう。
甲状腺ホルモンの分泌量は、30台まではある程度一定に保たれて分泌されますが、40歳台になると分泌量が徐々に低下する傾向にあることが確認されております。
この加齢に伴う分泌量の低下の原因は、甲状腺そのものの機能が低下してくる為です。
甲状腺は甲状腺刺激ホルモンの刺激を受けてヨードとホルモンを合成させ甲状腺ホルモンを分泌します。
しかし加齢に伴いこの合成機能も低下し、血液中の濃度も低下する事になるのです。
体内では当然、甲状腺ホルモンの必要性は変わりません。
その為、甲状腺刺激ホルモン(TSH)は人体から不足の信号を受けてた加齢に伴いより多くのTSHの分泌を行うようになります。
このように年齢による変動は誰にでも起きる現象であり、特に特別な治療を行う必要はありません。
但し、TSH値が基準を大きく超えてくる場合はホルモン補充療法を検討することになります。
~ポイントのまとめ~
★40歳台になると分泌量が徐々に低下する
★甲状腺の機能そのものも低下
★TSHが正常値を大きく超える場合はホルモン補充療法を検討する
◆甲状腺ホルモン剤による補充効果
甲状腺機能低下症など甲状腺ホルモンが必要量分泌されないようなケースでは、甲状腺ホルモン剤の投与による治療を開始するケースがあります。
これは甲状腺機能低下症を発症している患者のおよそ半数が既に甲状腺からのホルモン分泌機能を失っている為です。
失われた甲状腺の機能が回復することは基本的にありませんので外部から補充してあげる必要があるのですね。
補充療法では錠剤による服用と注射による注入の2つの方法がありますが、治療目的の場合は多くのケースで錠剤が使用されます。
甲状腺ホルモン補充療法の効果としては、以下のような効果が確認されております。
甲状腺ホルモン剤投与による補充効果
●代謝の向上による体温の上昇効果
●脂肪燃焼効果
●体重の増加防止
●心臓病・高血圧の防止
●胃腸の活動の活性化
●コレステロール数値の減少効果
どれも、とってもありがたい効果に感じるかもしれませんが、これらは甲状腺ホルモンが正常に分泌されている際に、私たちの体の中で起きている反応です。
甲状腺ホルモンがどれだけ重要なホルモンであるのかが良くわかりますよね。
~ポイントのまとめ~
★失われた甲状腺機能は回復しない
★脂肪の燃焼効果やコレステロール値の低下
★心臓病・高血圧症の予防など他の疾患への進展を食い止める上でも重要